文字の仕組み

文字とはなにか?

私たちは毎日大量の文字を使用しています。現代社会は文字の使用無くしては成り立ちません。では、私たちが使用しているこの文字とは一体なんでしょうか?

まず、すぐに思い浮かぶ定義は、「文字は記号である」というものでしょう。しかし、私たちは、文字以外にも様々な記号を使用しています。では、文字と文字以外の記号を分けるものはなんでしょうか?

文字は「言葉」を表記するために使用されますが、それ以外の記号は、通常、「言葉」を表記するために使用されません。文字を使って表記される言葉を「書き言葉」と呼び、文字を使わずに表現される言葉を「話し言葉」と呼びます。

世界には数多くの言語が存在し、その中には文字を持たない言語も存在します。また、文字が読めない人々も数多く存在しますが、その人たちも言葉を話しています。したがって、「言葉」はまず「話し言葉」、すなわち、「音声言語」として存在しています。文字は、その音声言語を記述するための記号です。したがって、音声言語と文字の間には明確な対応関係が存在します。

文字によって表される音声言語の音のことを音価 (phonetic value)と呼びます。したがって、文字とは一定の音価を持つ記号ということになります。

文字のこの定義に従えば、一定の音価を持たない記号は文字ではないことになります。例えば、「佐々木」や「奈々」、「人々」などの表現に使われる「々」は、私たちはあまり意識せずに文字として使用していますが、厳密には文字ではありません。この記号の役割は、それに先行する文字の音価の繰り返しを表します。例えば、「佐々木」においては「佐」の/sa/、「奈々」においては「奈」の/na/、「人々」においては「人」の/hito/(1)の反復を示しています。この記号が持つ一定の音価は存在しません。後述する文字コードの一つであるunicode上の分類では、この記号は「漢字圏の句読点などの補助記号」(CJK Symbols and Punctuation)となっています。

これから、様々な文字を見ることになりますが、コンピュータと文字との関係では、unicodeのサイト(http://www.unicode.org/)が最も重要です。また、世界の様々な文字を見やすい形で公開しているサイトに中西印刷(http://www.nacos.com/moji/)があります。

世界には様々な文字があります。ローマ字(ラテン・アルファベット)は20数個の記号で構成されています。それに対して、漢字は約五万程度あると言われています。この違いはどこから来るのでしょうか?

よく耳にする答えは、「ローマ字は表音文字だから数が少ない。漢字は表意文字だから数が多い。」というものです。これは本当に正しいのでしょうか?また、表音文字・表意文字とは何なのでしょうか?

  1. ここでは、「連濁」と呼ばれる音変化が生じているため、実際には/bito/を表すことになる。

音声学の基礎

文字の問題を詳しく見ていくためには、言葉の音に関する基本的知識を持っていなければなりません。

まず、言語音は、子音と母音に大別されます。

子音 (consonant)
口腔内で呼気の流れがある程度妨げられて発せれられる言語音
母音 (vowel)
口腔内で呼気の流れがあまり妨げられないで発せれられる言語音

子音

調音点(point of articulation)、および、調音法(manner of articulation)に基づいて子音を分類します。

調音点

調音点(point of articulation)は、肺から唇までの発声器官(phonetic organ)の中で、音の区別に大きく係る部分です。

  1. 唇(lips)
  2. 歯(teeth)
  3. 歯茎(alveolar ridge)
  4. 硬口蓋(hard palate)
  5. 軟口蓋(velum, soft palate)
  6. 口蓋垂(uvula)
  7. 咽頭(pharynx)
  8. 喉頭(larynx)
  9. 声門(glottis)
  10. 声帯(vocal cord)
  11. 鼻腔(nasal cavity)
  12. 口腔(oral cavity)
  13. 舌(tongue)

これらの調音点に基づいて以下のような子音の分類を行います。

  1. 両唇音(Bilabial)
  2. 唇歯音(Labio-dental)
  3. 歯間音(Interdental)
  4. 歯音(Dental)
  5. 歯茎音(Alveolar)
  6. 歯茎硬口蓋音(Palato-alveolar)
  7. 硬口蓋音(Palatal)
  8. 軟口蓋音(Velar)
  9. 口蓋垂音(Uvular)
  10. 咽頭音(Pharyngeal)
  11. 声門音(Glottal)

調音法

調音法(manner of articulation)による子音の区別は、調音点において呼気がどのように流れるか(あるいは、流れないか)により、以下のように分類されます。

  1. 閉鎖音、破裂音(Stop, Plosive)
  2. 入破音(Implosive)
  3. 摩擦音(Fricative)
  4. 鼻音(Nasal)
  5. 接近音(Approximant)
    1. 側面接近音(Lateral Approximant)
    2. 中央接近音(Central Approximant)
  6. 声帯の震えの有無
    1. 有声音(Voiced)
    2. 無声音(Voiceless)

調音点と調音法に基づいて、英語や日本語等の主要な子音を配置したのが下の図です。(2)

子音の分類
両唇音 唇歯音 歯間音 歯音・歯茎音 歯茎硬口蓋音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 咽頭音 声門音
閉鎖音(無声)  p       t   č (tʃ)   c   k   q     
閉鎖音(有声)  b       d   ǰ (dʒ)   ɟ   g   G     ʔ 
入破音  ɓ   ɗ   ɠ 
摩擦音(無声)  ϕ   f   θ   s   š (ʃ)   ɕ   x   χ   ħ 
摩擦音(有声)  β   v   ð   z   ž (ʒ)   ʑ   γ   ʁ   ʕ 
鼻音  m   ɱ   n   ň   ɲ   ŋ   N 
側面接近音  l   Ǐ   ʎ 
中央接近音  r   y   w   h 
  1. ここで使用する発音記号は、国際音声字母(IPA: International Phonetic Alphabet)に従ったものである。現在の主要なコンピュータが採用しているユニコード(unicode)上の、基本ラテン文字、ラテン1補助、ラテン文字拡張、IPA拡張などを使用することにより、ワープロなどでこのような発音記号のほとんどを表示する事が出来ます。

母音

母音の分類には、次の4つの要因が関与します。

  1. 舌のどの部分が大きく関与するか:前舌(front)、中舌(central)、後舌(back)
  2. 舌の高さ:高舌・口の開きが狭い(high)、中間(mid)、低舌・口の開きが広い(low)
  3. 唇の円め:円唇(rounded)、非円唇(unrounded)
  4. 舌の緊張の度合い:緊張音・張り母音(tense)、弛緩音・緩み母音(lax)

これら4つに基づいて、英語や日本語等の主要な母音を配置したのが下の図です。(太字は円唇(rounded)の性質を持つ母音、括弧でくくられているものは弛緩音・緩み母音(lax)を表します。)

母音の分類
前舌(front) 中舌(central) 後舌(back)
高舌(high)  i (I) ü   ɨ (ə)   ɯ u (U) 
中間(mid)  e (ɛ) ö   ɜ (ʌ)   o ɔ 
低舌(low)  æ   a (ɐ)   ɒ 
五十音図の謎

おなじみの五十音図(五十音表)は何故、次のような並びになっているのでしょうか?

五十音図(五十音表)
 わ (wa)   ら (ra)   や (ya)   ま (ma)   は (ha)   な (na)   た (ta)   さ (sa)   か (ka)   あ  (a) 
 ゐ (wi)   り (ri)     (yi)   み (mi)   ひ (hi)   に (ni)   ち (ti)   し (si)   き (ki)   い  (i) 
   (wu)   る (ru)   ゆ (yu)   む (mu)   ふ (hu)   ぬ (nu)   つ (tu)   す (su)   く (ku)   う  (u) 
 ゑ (we)   れ (re)     (ye)   め (me)   へ (he)   ね (ne)   て (te)   せ (se)   け (ke)   え  (a) 
 ん  (n)   を (wo)   ろ (ro)   よ (yo)   も (mo)   ほ (ho)   の (no)   と (to)   そ (so)   こ (ko)   お  (o) 

その答えは、これまで見てきたことの中にあります。この表を、上の子音の表と照らし合わせて見ましょう。そうするとかなり共通する点が見えてきます。

「あ」行の音は、いわゆる母音ですが、それぞれの音を単独で発音する場合、喉の奥の声門の開閉が生じます。したがって、これは声門閉鎖音(Glottal Stop)であることになり、声門が大きく関与します。

「か」行の音は、軟口蓋の閉鎖音ですから、軟口蓋が大きく関与します。

「さ」行の音は、歯茎の摩擦音ですから、歯茎が大きく関与します。

「た」行の音は、歯茎の閉鎖音ですから、歯茎が大きく関与します。

「な」行の音は、歯茎の鼻音ですから、歯茎が大きく関与します。

このように、「あかさなたな」の順番は、その発音に大きく係る部分に従って、喉の奥から口の前の方という配列になっています。

この配列は、古代インドの音声研究のよって生み出されたもので、日本には、仏教と共に入って来ました。「あ」から始まって「ん」で終わるこの配列が仏教と密接に結びついていることは、寺院や神社の入り口に対になって置かれている「狛犬」や「仁王像」の口の形がそれぞれ、「あ」と「ん」の形をしている事からも伺えます。この「あ」と「ん」の対を「阿吽(あうん)」と呼び、これの元になった仏教における音韻研究の学問のことを悉曇学と呼びます。

「あかさなたな」の並びがインド起源であることの傍証として、現在のインドの文字であるデーバナーガリー文字(Devanagari)の配列とその音価を以下に示しておきます。(現在、unicode上で単独で表示できない文字は省き、音価の細かい相違も省いていますが、基本的な配列はunicodeにおける配列を踏襲しています。)

デーバナーガリー文字とその音価
 अ  (a)  आ (aa)  इ  (i)  ई  (ii)  उ  (u)  ऊ (uu)  ऋ  (ṛ)  ऌ  (ḷ)  ऍ  (e)  ऎ (ĕ)  ए  (e)  ऐ  (ai)  ऑ  (o)  ऒ  (ŏ)
 ओ (o)  औ (au)  क (ka)  ख (kha)  ग (ga)  घ (gha)  ङ (nga)  च (ca)  छ (cha)  ज (ja)  झ (jha)  ञ (nya)  ट (tta)  ठ (ttha)
 ड (dda)  ढ (ddha)  ण (nna)  त (ta)  थ (tha)  द (da)  ध (dha)  न (na)  ऩ (nnna)  प (pa)  फ (pha)  ब (ba)  भ (bha)  म (ma)
 य (ya)  र  (ra)  ऱ (rra)  ल (la)  ळ (lla)  ऴ (llla)  व (va)  श (sha)  ष (ssa)  स (sa)  ह (ha)