その他の様々な語形成のプロセス

英語には、接辞付加や複合語形成以外にも様々な語形成のプロセスが存在します。

句の語彙化

頻繁に使用される慣用句がそのまま語となる場合があります。これを句の語彙化(Lexicalization of phrases)と呼びます。句の語彙化では、句を構成する語をハイフンで繋いで表記する場合が多いです。

lady-in-waiting
matter-of-factly
hard-to-find
catch-me-if-you-can

上のmatter-of-factlyでは、語彙化された句matter-of-factに接尾辞の-lyが付加されています。

句の語彙化では句としての特性を残している場合があります。

passer-by ~ passers-by

上の例では、複数の接尾辞が語全体の末尾ではなく、語彙化された句内部の名詞の後についています。

John what's-his-name
Jane what's-her-name

上の例では、語彙化された句what's-his/her-nameの代名詞の部分がJohnやJaneという先行する名前の性を受けて変化しています。

逆成

複合語や派生語が、その形成過程に関する誤った分析に基づいて、切り詰められ、新しい語が産み出される場合があります。これを逆成(Back Formation)と呼びます。

brainwashing 	→ 	brainwash
paramedical 	→ 	paramedic
sightseeing 	→ 	sightsee
spoonfeeding 	→ 	spoonfeed
testflying 	→ 	testfly
babysitter 	→ 	babysit
transcription 	→ 	transcript
contraception 	→ 	contracept

brainwashingは、本来、brain + washingの組み合わせから産み出された複合語です。しかし、語末が-ingであるため、その前の部分全体が動詞であると誤って解釈され、-ingを取った形の動詞brainwashが新しく産み出されました。

省略

逆成の場合以外にも、比較的長い語が短く切り詰められる場合があります。これを省略(Clipping)と呼びます。

laboratory 	→ 	lab
bisexual 	→ 	bi
photograph	→ 	photo
telephone 	→	phone
helicopter 	→ 	copter
influenza 	→ 	flu
bicycle 	→ 	bike
microphone 	→ 	mike

省略の結果残る部分は、語頭(lab)、語末(phone)、語中(flu)のいずれの場合も存在します。

省略の際、laboratoryがlabに変化する場合のように音節の再分析が生じることや、bicycleがbikeに変化する場合のように音変化を伴うことがあります。

混合

省略した単語の一部を組み合わせて新しい単語を作る場合があります。これを混合(Blending)と呼びます。

smoke + fog 		→ 	smog
motor + hotel 		→ 	motel
breakfast + lunch	→ 	brunch
magazine + book		→ 	mook
drama + comedy		→ 	dramedy

異分析

逆成の場合にもかかわっていますが、語を誤って分析してしまう事があります。このような誤った分析を異分析(Metanalysis)と呼びます。

例えば、hamburgerは元々hamburger steak(ハンブルク風ステーキ)(7)をパンで挟んだものを指しています。これがham + burgerという構造を持ち、hamがパンで挟まれるものであると誤って分析されました。そして、hamの部分を別のパンで挟まれるものの名前で置き換えることにより、cheeseburgerのような新しい名称を産み出しました。この結果、-burgerが新しい造語要素となりました。

alcoholicを本来のalcohol + icではなく、alc + holicと分析し、workaholicのような新しい語を産み出した例も異分析の例です。

  1. hamburgerはHamburg(ハンブルク)+ er(形容詞を作るドイツ語の接辞)から出来たドイツ語です。

頭文字語

Central Intelligence Agencyを略してCIAと呼ぶように、いくつかの単語の頭文字を組み合わせて新しい単語を作る場合もあります。これを頭文字語(Acronym)と呼びます。

Beginners' All-Purpose Symbolic Instruction Code	→	BASIC
light amplification by stimulated emission of radiation	→	laser
North Atlantic Treaty Organization			→	NATO
self-contained underwater breathing apparatus		→	scuba
radio detecting and ranging				→	radar
sound navigating and ranging				→	sonar

頭文字語には、上のように通常の単語と同様な単語として発音する場合と、下のように文字のアルファベットの発音のまま発音する場合の二つの場合があります。後者を特にイニシャリズム(Initialism)と呼びます。

Central Intelligence Agency	→	CIA
Federal Bureau of Investigation	→	FBI
United Nations			→	UN
very important person		→	VIP 

Master of Ceremonies		→	MC (Emcee)
Disc Jockey			→	DJ (Deejay)

語根創造

既存の語や形態素を用いずに全く新しい語を作る場合を語根創造(Root Creation)と呼びます。この語根創造にかかわるメカニズムとしては次の3つのケースが考えられます。

擬音語

擬音語(Onomatopoeia)は、物事にかかわる音を真似て作られます。

bow-wow, coo, meow, moo, oink, quack, tweet, woof (動物の鳴き声から)

barf, blap, cough, hic, smooch, zzz (人間の行為から)

beep, click, splash, tinkle (無生物等の音から)

音象徴

ある物事に特定の音の連鎖を結びつける事を音象徴 (Sound Symbolism)と呼びます。この一部は擬態語と呼ばれることもあります。

sniff, snore, snort, snivel, sneeze(鼻にかかわること)
gleam, glare, glitter, glimmer, glisten (光)
fly, flit, flutter, float, flow (流れ)
wrench, wrest, wring, wrestle, wriggle 
 (曲げ)
boom, zoom (上昇)
bump, crump, dump, thump (衝突) 

下の例のように、構成する母音を置き換えその母音の違いによって距離感の違いを表す場合があります。これも音象徴の一つであると考えられます。この場合、/i/が一番近いことを表し、/a/、/o/の順で遠くなる感じを表します。

flip - flap - flop
ding - dong
ting - tang

日本語でヤマからヤマヤマを作り出すように、同じ単語/音連鎖を繰り返して新しい語を作り出す事を畳語(Reduplication)と呼びます。英語では全く同じ要素を繰り返すのではなく、上の音象徴を取り入れて母音の置き換えた形で新しい語を作り出す場合があります。

ping-pong
flip-flop, 
riff-raff
zig-zag
bibbity-bobbity-boo

商品名/商標など

商品名、商標や会社名などの場合、他に無いユニークな名前を必要とするため、あえてその言語であまり使われない音連鎖や綴りで新しい語を作り出すことがあります。

Kodak

Klaxon ← klazein (Gk)
Kleenex ← clean + out

英語ではKで始まる単語は多くないため、上の商標等ではあえてKで始まる単語にしています。

品詞転換

単語の綴りや発音をほとんど変化させず、品詞を変えることによって新しい語を産み出すことがあります。これを品詞転換(Conversion)と呼びます。

例えば、Xeroxは、本来、コピー機を製造する会社名/商標を表す固有名詞でした。この会社のコピー機が普及するに従い、xerox((Xerox社製以外も含めた)コピー機)が普通名詞として使われるようになりました。さらに、これが動詞に変化し、動詞xerox(コピー機を使ってコピーする)が生まれました。

以下に有名な事例を示しますが、品詞転換はよく起こります。

Boycott(人名)	→	boycott (動詞)
Lynch(人名)	→	lynch (動詞)
Meander(地名)	→	meander (動詞)
Shanghai(地名)	→	shanghai (動詞)

このような品詞転換からある程度時間が経過すると、いわゆる「名前動後」の強勢パターンとなり、強勢の位置により品詞の区別が可能になります。

cónduct(名詞)	-	condúct(動詞)
cóntrast(名詞)	-	contrást(動詞)
pérmit(名詞)	-	permít(動詞)
prótest(名詞)	-	protést(動詞)

しかし、一度品詞転換を起こした後、その意味が特殊化してしまい、再び元の品詞に品詞転換する場合もあります。この場合同じ品詞の語でも、その意味によって強勢の位置が異なる事態が生じます。

abstráct(動詞:抽出する)		→	ábstract(名詞:要約)	→	ábstract(動詞:要約する)
combíne(動詞:束ねる)		→	cómbine(名詞:コンバイン)→	cómbine(動詞:コンバインで収穫する)
discóunt(動詞:計算に入れない)	→	díscount(名詞:割引)	→	díscount(動詞:割り引く)

補充法

活用などの語形変化のパラダイム内の一部の語形が他の異なるパラダイムの語形と置き換わってしまう場合があります。これを補充法(Suppletion)と呼びます。たとえば、英語のgoの過去形のwentはもともとは、goとほぼ同じ意味を持つwendの過去形でした。これがgoの語形変化のパラダイム内に入り込んで定着してしまいました。(8)英語のbe動詞の活用変化には、下のように、いくつもの異なるパラダイムからの語形が混在しています。(9)

be, been, being*bhu-
am, is, are*es-
was, were*wes-

上記の例のように、一つの語形全体が取り込まれることをTotal Suppletionと呼びます。これに対して、語形の一部のみが取り込まれることを、Partial Suppletionと呼びます。

  1. goに過去形wentを奪われてしまったため、wend自体の過去形はwendedになってしまいました。
  2. *bhu-等の例の語頭の星印はこれがインド・ヨーロッパ祖語の推定形であることを表します。